入学1−1
「それで、何処に連れて行くって?」
俺を脇に抱えて猛スピードで空を飛ぶ春海に大声で問いかける。
いや、正確に言えば空を飛んでいる訳ではなく、雲より高く跳ぶジャンプを繰り返し、
さらに地上では観測したことがない強風に飛ばされながら高速移動している。
春海はある人達が俺と会いたがっていると簡単な説明をしたが、誰かと言うのは教えてはもらえなかった。
春海が言うに、会えば驚く人だということだが、俺の予想では俺が産まれる前に亡くなっている母方の祖父母だと思う。
しかし、十年ほど前に死んだ父方の爺ちゃんの弟という線も捨てきれない。
まあなんにせよ、俺なんかに会いたがっている幽霊なんて高が知れている。
山や谷を幾重にも飛び越え、春海が遙か彼方にある積乱雲を指差す。
春海は何かを叫んでいるが、上空一万メートル以上で吹き荒れるジェット気流の轟音のせいで全く聞こえない。
口調から推測するに「かっこう」と言ったのだろう。カッコウ……鳥か?
何の事かはいまいち解らないが、着けば解ると楽観的に考え、しばらくその雲に向かって飛び続けた。
やがて雲の中から建築物が出てきた。
雲は偶然その建築物を覆っていただけで、別に某有名アニメ映画みたいに雲の中にあるわけではなかった。
なんていうか、どう見ても城なのだ。いかにも日本らしい城。
例えるなら白鷺城の様な美しい城が、よく漫画やアニメでありそうなUFOに盗まれている途中であるかのように、
地面ごと浮かび上がっている。
春海と俺はその城の門の前にゆっくりと着地した。
此処まで来て、ようやくその城の凄さを実感する事になった。
とにかく大きいのだ。昔、家族旅行で某所の城を訪れたことがあるが、それとは比較にならないほど大きい。
「到着。私たちの学校にようこそ」
春海はバッグの中からコンパクトケースを取り出し、身だしなみを整えながら顎で城を指した。
「学校?」
もう一度巨大な城を見上げる。どう見ても学校には見えない。
「そう。大阪城と江戸城の良い所取りをして、さらに西洋の城の内装を入れたりね。
生徒の欲望が赴くままに増改築を繰り返した…… まあ、一言で例えるならカオスだね」
春海はコンパクトを音を立てながら閉じ、ブラシと一緒にバッグにしまう。髪は元通り綺麗に整っている。
そういえば、この城に降り立った瞬間から風が止まった。
風を感じようと少しだけ手を上げるが全く風が当たらない。
更に付け加えると真夏の屋外であるにも関わらず、暑さは全く感じない。それどころか涼しくて過ごし易いくらいだ。
「ちょっとここで待っててね」とだけ言い、春海は守衛室らしき小屋の方に走っていった。と思ったらおもむろに振り返り
「絶対にその門から中に入っちゃ駄目だよ。
約束破ったらどんな酷い目に合わされても絶対に助けて上げないからね!」と大声で俺に忠告をした。
はいよ。と春海に手を振り、近くにあった手頃な岩に腰掛けた。
アドベンチャーゲームならここで『入るor入らない』といった選択肢が出るのだろうが、
俺はどこぞのガキみたいに約束を破ったりはしない。
……当然、彼女の言いつけを守る理由はある。
ここに来る途中に俺と春海は、とある地方都市の街中に立ち寄った。
予め何かの用があったわけではなく偶然、あるものを見つけて俺に見せつけようたのだ。
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