たった今までこの世界を支配してきた闇の色彩=黒色(こくしょく)の中に、とても僅かだが針穴の如く小さな点が微細に光輝いてる。
それはまるで暗い部屋から見つけた、覗き穴のようによりはっきりと存在を主張している。
しかし大はその変化を、受け容れるべきか判断しかねた。
あまりにも突然の出来事だったからだ。
頭がその変化に追いつけていない。
――信じられない。
目覚めてから大の身に降りかかって来た数々の奇異な出来事。
何処までも続く暗黒の闇。そこから響くいもしない父親と大自身の会話。学校のチャイム…
大は真実か幻かを見極めることに恐怖を感じていた。
もし…また幻だったら…
そう考えただけで瞬(まばた)き一つ動かすことが出来なくなる。
少しでも変化を与えてしまえば、そのよわよわしい灯火を吹け消しそうで、ただ消えないでと願うばかりだった。
これが消えた時――今度こそ大は闇に囚われる。自分が無くなる。
光に近づくことも出来ないまま、大は先程と変わらない位置から光を怯えた眼で真摯に見つめ続ける。
しかし少しでも光の元へ近寄りたい衝動が、徐々に大の心に焦りを生み出し始める。
今行かなければ……消えてしまうかもしれない。
少ない知識をフル活用しながら必死に悩んでいると、大の代わりに答えを出す声が聞こえてきた。
「……ま……さる……お……い………で……」
大はこれ以上に無いくらい眼を大きく開き、小さな頼り火を注視する。
聞き取りづらいがその光から優しげな女性の声が聞こえてきた。
(…………マ…マ?)
驚愕に震える手をそっと伸ばす。
まるでそれに答えるかのように、僅かな光が明滅しながら少しずつ暗い闇の中を広がっていく。
最初は針穴ぐらいの大きさだった光が、次第に一円玉ほどになり、五百円玉、テニスボールと範囲を徐々に広げ、闇を包み込む。
サッカーボールほどになる頃には、大はその明かりに向けて泣きながら走り出していた。
「ああぁ(うわぁ)ー!!あああぁぁあ(マママァァマ)ーー!」
掠れて出しにくい声で母親を必死に呼びながら、遠近感の分からないこの世界をひたすらその光の下へ走り続ける。
走るごとに近づく暖かい光は、暮れなず夕陽のように目に残像を焼き付けるオレンジ色をしていた。
光はゆっくりとだが着実に黒から茜色に染め上げている。
それも手伝ってか走るごとに光のベールは近づき、大の今いる場所に後電信柱2本分という所まで迫っていた。
大の心も目の前で繰り広げられる光景そのままに、闇への絶望感から光の暖かさと喜びに満ちる。
(――もうちょっと!)
逸る気持ちを駆ける足に乗せ、息を弾ませながら数メートル先に見える闇と光の境目を目指す。
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