「……カチャリ……」
静かな金属音が響く。寂花が中を覗くと、数通の封筒が入っている。どれも、見覚えがあるものばかりのようだ。
「えーっと…電気の明細書に…ピザ屋のチラシ…あと、風俗関係か……。」
「寂花〜!眼鏡!!」
「あぁ〜。忘れてた!ごめん、ごめん。」
入り口の扉にへっぴり腰でしがみ付いている、怯えきった顔の大から助けの声が掛かる。
情けない姿の大に苦笑しつつ、扉に歩み寄っていく。
その途中、数枚の風俗系のチラシを、郵便受けの近くに備え付けられているゴミ箱に捨てる。
結婚式を挙げたとしても、何一つ変わることは無い、いつもどおりの日常の行動。
ゴミ箱から溢れ出ている、雑多な色とりどりの紙をただなんとなく眺める。
(結婚したら、何か変化があるのかと思ってたけど……ネ。)
幼かった頃に思い描いていた結婚像を懐かしむ。
しかし、過去への回帰もすぐに終了させ、大の元に向かおうと踵を返す。
そこには大の他に、両手に買い物袋を持ち、紫色の派手な柄のセーターを着込んだ五十代前半の女性がいた。
決して着膨れだけとは言えない丸々とした体型を揺らしながら、
豪快に大の背中を叩きながら寂花が立ち尽くしている場所まで歩いてくる。
「あはは!寂花〜あんたの旦那は結婚したって、全く変わんないね。頼りないったら――ほら!しっかり歩きな!」
「いてっ!?華恵(はなえ)さん、痛いって〜!」
「ぷっ―!もっとやっていいですよ。ほんとに頼りないんで――。」
「そんなぁ〜寂花まで〜」
「「――あはははっ!」」
寂花達と親しげに会話を交わしているこの女性は、
寂花達が入居した当初から何かと世話を焼かれている隣の部屋の住人、水茎華恵(みずぐきはなえ)である。
身寄りの無い寂花と大にとって、母親のようにありのまま心を委ねられる存在になっている。
華恵自身、昔に夫と子供を事故で亡くすという、悲しいという言葉だけでは表すことが出来ないつらい経験をしていた。
なので、尚更二人の境遇をを知って以来は、我が子同然のように接している。
三人は、今日の結婚式のことなどを話のネタに盛り上がりながら、オートロックを抜けて、エレベーターに乗り込む。
無事に眼鏡を奪取した大は二人が乗り込むのを確認してから、扉を閉めて6のボタンを押す。
閉鎖された空間が6階に向けて、ゆっくりと垂直移動を開始する。
寂花が手に持ったままだった郵便物の存在を思い出し、鞄に入れようと手元を動かす。
その様子を見ていた華恵は、急に忙しなく自分の鞄を確認してから、興奮した口調で寂花達に話し出す。
「そういえば、あんた達に話さなきゃいけないことがあったのよ!」
「ど、どうしたの?そんな興奮して―?」
「話す前に、確認しなきゃいけないことがあるんだけど――大。」
「へっ?何?」
エレベーターの電光板の数字を目で追っていた大に、華恵が興奮を無理やり押し鎮めた声音で確認するように問いかけてきた。
|