零戦乗り(レイセンノリ)



昭和二十年八月・・・。
  『遺書』
お母さん、お体の具合は如何でしょうか
この前来てくださった時は、具合が悪いとおっしゃられていましたね。
お元気になられていると良いのですが。
お母さん、私は三日の後出撃いたします。
そちらの方からも私の姿が見えるのではないかと思います。
お国のためにお役目を果たしてまいります。
立派にお役目が果たせるように見守っていてください。

もう二度とは祖国の地は踏めぬ。
もう二度と家族とも会えぬ。
もう二度と・・・。
位牌と骨壷を残しお役目を果たす。
骨壷の中には爪と髪の毛が入っているだけ。

出撃前夜、仲間と酒を酌み交わす。
湯呑に注がれた酒を飲み干す。
それぞれの思いを胸に酒を飲む。
明日は出撃・・・。
お国のために皆のためにお役目を果たしに行く。
立派にお役目を果たす事が出来るだろうか・・・。
お守りを握り締める。

出撃当日
いよいよ出撃だ 皆緊張している。
夕べ酒を浴びるほど飲んだとは思えぬほど・・・。
『行ってまいります。』
見送る物へ 敬礼
零戦へ乗りこむ。
離陸・・・。
編隊を組みながら飛行する。
母さん、自分の晴れ姿を見てくれただろうか。

しばらく飛行していたが、エンジンの音がおかしい。
自分の機体が編隊から離れていく
皆は、自分に向かって戻れ戻れと手振りしている。
だが・・・ここで戻るわけにはいくまい・・・。
このままでは、敵船が見えるまでは持ちそうにもないのは自分にも解った。
仕方がないが引き返す。
『皆自分は遅れるが、必ず皆の元へ行く・・・必ず・・・。』

引き返した・・・日本へ向けて。
エンジンから黒煙が噴出している・・・。
機体が急降下しはじめた・・・操縦不能・・・このままでは日本へは戻れまい。
下には島が見える・・・なんとか不時着出来ないものか・・・。
もがいてみる・・・駄目だ・・・脱出するか・・・もう間に合わないだろう・・・。
島の密林めがけて零戦が落ちていく。
こんな所で終わってしまうのか・・・お役目も果たせずに・・・。
零戦が密林へ突っ込んだ。
その衝撃で操縦機に頭をぶつけてしまった。
目をあけると暗闇が広がっていた。
自分は、しばらく気を失っていたらしい
頭が痛い・・・額からは出血しているようだ・・・。
誰か救助に来てくれるだろうか・・・。
名も解らぬ島・・・住民が居るのかさえ解らない・・・
ここは、日本ではないことだけは確かなようだ。
また気が遠くなる・・・このままで終るのか・・・終ってはいけないと言うのに・・・。

あれからどれぐらいたったのだろうか・・・一日?二日?・・・もっとたっているのか・・・。
零戦から降りる事も出来ず、身動きすら出来ない・・・。
このまま朽ち果ててしまうのか・・・そんな思いが脳裏を掠める。
自分はここで死ぬわけにはいかないのだ。
お国のため皆のためにお役目を果たさねば・・・
先にいった仲間にも申し訳が立たない・・・ここでは死ねない。

またどれぐらいの時が過ぎたのだろうか・・・。
零戦が開いた。
救助兵か?・・・誰だろう・・・何人だろうか・・・。
敵兵?・・・違うこれは、この会話は日本語のように聞こえる。
救助に来てくれたのか・・・『助かった』・・・だが・・・何となにし『申し訳ない』
零戦から自分の身体が出されていく・・・。
これで日本へ帰還出来る。
そしてもう一度飛び立ち、お役目を果たしてみせる。

自分は、祖国へ帰還した。
だが、終戦を迎えていた。
お役目を果たす事が出来ぬまま終わってしまった。
『すまないみんな…。』
ぼろぼろの戦闘服からかすかに読み取れる名前・・・。
これで自分の身元がわかったようだ。

数日後
「お帰り・・・おかえりなさい」涙を流し自分をなでる人が居る。
ここは自分の生まれ育った家なのか・・・
帰ってきたのか?・・・帰ってこられたのか我が家へ・・・家族の待つ家へ。
だが、何故・・・軍の病院ではないのか・・・。
涙を流し自分をなでる人・・・知っているような・・・知らないような・・・。
白髪の老婆が自分を見て泣いている。
「辛かったね・・・苦しかったね・・・寂しかったね・・・。」
「六十年も一人で・・・。」
『六十年?』
そんなに時が流れているのか・・・まさか・・・自分は・・・。
線香のような匂いがしている・・・。
そうなのか・・・自分はあの島ですでに息絶えていたのか・・・。
そんな事にも気づかず今まで時を過ごしていたのか・・・。
自分の生涯は、17歳という年齢で終っていた。
「よく帰ってきてくれたね・・・ごくろうさま。」
『お母さん・・・ただいま戻りました・・・。』
『お役目も果たせず、生還も出来なかった親不幸をお許し下さい・・・。』
『私は・・・私は・・・。』
優しくやさしく自分をなでる手。
その手はしわが何本もあった・・・こんなにも こんなにも待ちつづけていてくれた母。
『申し訳ございません。こんなにも辛い思いをさせてしまって・・・すみません・・・。』
「疲れたでしょう・・・もうおやすみ・・・。」
暖かな言葉・・・。
『はい・・・お言葉に甘えて、休まさせていただきます。』
自分の声は母には聞こえない・・・だが、答えずにはいられなかった・・・。
自分は、永遠の眠りにつくのだ・・・。『仲間は許してくれるのだろうか・・・。』
「きっと許してくださいますよ。」
微笑みながら母は言った。
まるで自分の声が聞こえたかのように・・・。
これで自分の戦争も終戦を迎えた。
零戦は今もあの密林の中・・・ツタが絡まり・・・朽ち果てていく
主の居ない零戦は何を思っているのだろう。
そして何を見つづけているのだろうか。
『お前ももうおやすみ』

================終====================


作者からのメッセージ: 私は軍〇主義者でもなく〇翼とかそんなのでもありません。 戦後60年と言うことで テレビでは 第2次世界大戦の特番が頻繁に放送されていました。 それを見てふと思いついた物語です。 大変御粗末で 見苦しいかもしれません(笑) 殆ど小説の類を読んだ事がありませんので・・・。 読んでもらえたら幸いでございます。 作者:Dante


SEO 掲示板 レンタルサーバー ブログ SEO